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"Chiristmas holiday in Ohio " 杉本 紫乃

2002年12月20日から8日間、私はアメリカのオハイオに住むナンシーのところで過ごしました。小学校の先生をしている彼女は、オハイオリバーバレー・エアデールテリアクラブに所属し、レスキューチームの一員でもあります。私たちの初めての出会いは、1998年の秋に彼女が学校の先生の研修で日本を訪れた時のことです。それ以来私たちの親交は深まり、2001年の夏には彼女は再度日本を訪れ、我が家で3週間ほど滞在し、その後私の夫がアメリカのモンゴメリ展に行った時には大変お世話になりました。また夫は仕事でアメリカに行った際にもナンシーの家を訪れています。彼女とは1週間に1度ぐらいの割合でずっとメール交換が続いており、私もいつか必ず遊びに行くことを約束していました。そして、今回その夢が叶ったのです。

私にとって一番家を留守にしやすい日がこの年末前の数日間でした。クラブのすべての行事が終わって、クラブのお手伝いも一段落し、また末っ子のダイアンも1歳を過ぎ、何とか留守番もできるようになったからです(多少被害はあったかもかもしれませんが)。その間夫は会社へ行きながら、犬の面倒をみなければならなかったので、とても大変だったようですが。
第一の目的はもちろんアメリカの家庭でクリスマスを過ごすことです。まるで夢のようです。映画で見た色々なシーンが頭を駆けめぐります。もう一つ、実際にアメリカの家庭で生活しているエアデールに会うことです。本当はエアデールも一緒に参加するクリスマスパーティーに参加したかったのですが、もうすでにクリスマスホリデーに入る前に終わってしまっていました。アメリカではホリデーの期間は家族の元へ帰り、家族と一緒に過ごす家庭が多いのです。

ナンシーの家はオハイオ州コロンバスから車で45分ほどの本当に静かな田舎町にあります。森の中に家があり、周りには大きなファームもあります。庭にはリスが走っていたり、たまにはシカも横切ることがあるようです。実際にシカの姿を見ることができませんでしたが、雪の上に足跡は残っていました。ここで彼女は夫のジョージと3頭のエアデールと一緒に暮らしています。一番年上のチェルシー(12歳牝)をのぞいて、2頭はレスキューした犬たちです。ニッキは牝で年齢はよくわかっていませんが、たぶん5,6歳だろうということでした。レスキューされる前は暴力を受けていたと聞いていましたが、その可愛らしさと控えめな性格に接すると、なぜそのようなひどいことができるのか信じられません。ロコ(7歳牡)は飼い主が病気になって手放された犬です。その年齢故に、新しい飼い主が決まらず、一度決まりかけた際にはロコが乱暴すぎるので手に負えないと言われたこともありました。でも、実際にはとても甘え上手で常に誰かの側にいたがります。やきもちやきなので少々強引な感じもしますが、典型的なエアデールの男の子だと思いました。

彼らは日常ご夫妻が仕事に出かけている間はケージに入っていますが、誰かが家にいるときはいつも自由に過ごしています。3頭ともとても穏やかで、たまに家の中で走り回る時もありますが、注意を受けるとすぐに静かになります。3頭とも避妊や去勢手術を受けているからでしょうか、興奮しすぎるということがあまり見受けられません。また人間も興奮を誘うような遊びはしません。私は時々家に残してきた犬たちを思い出し、ちょっぴり淋しくなりましたが、この3頭のおかげでホームシックにかかることはありませんでした。

George, Nansy, Shino

ロコ
左 ニッキ、 右 チェルシー

今回アメリカへ行くことが決まったときから、私は是非ブリーダーを訪ねてみたいと考えていました。そして、この日ナンシーと一緒に私たちはドラファッツ エアデールズを訪問しました。この犬舎はオハイオの有名な犬舎でエアデールテリア クラブ オブアメリカからも優良ブリーダーとして推奨されています。クリスマスホリデーの忙しい中、スーはとても気持ちよく私たちを歓迎してくれました。ちょうど彼女の犬のハンドラーのデイビッド ジョンソンも来ていて、犬舎のスターたちを見せてくれました。彼はとても人気のあるハンドラーで、さすがどの犬も彼がリードを持つと、うれしそうに生き生きしています。

スーとエアデールの出会いは彼女が23歳の時でした。公園でエアデールを見て、今まで見た中でもっとも美しい犬だと思い、1958年に最初のエアデールを飼いはじめ、1960年には2頭目を飼い、1980年にブリーディングを始めました。彼女は現在は16頭のエアデールと一緒に暮らしています。広い庭に建った犬舎は広い倉庫のようで、中はそれぞれの犬舎に分かれており、またシャンプー、トリミング、すべてがこの中でできるようになっています。

彼らの運動は1日3回20分ずつ広い運動場に一斉に放して運動させます。その中には7頭の牡もいます。一見危険そうに感じますが、彼女によると広い運動場で放して、人が近づかなければケンカは起こらないそうです。人が来ると人に寄ってくる犬たちは、お互いに近づきすぎ、また人から注目されようと競争心が働き、ケンカになる可能性があるからです。確かにスーの家の運動場は本当に広いところです。たとえ16頭が遊んでいても仲の悪い犬同士が避ける余裕はいくらでもありそうです。

スーは良い気性を持った健康な犬を繁殖したいと考えています。彼女は同胎の中から1頭か2頭を残し、優秀な血統を継続しています。また、彼女は1年のうちほとんどの週末は犬をショーに出しています。通常ショーは金、土、日曜日に行われますが、たまに木曜日を含むこともあります。トリミングはハンドラーのデイビッドがする場合もありますが、主にスーが一人でします。彼女は仕事をリタイヤしたいわゆる老婦人ですので、これには驚かされました。小柄な身体で毎週エアデールをきちんと手入れし、ショーに出すのはとてもエネルギーのいることだと思います。ショーの際には自分でハンドリングをするときもあるそうです。 
そのほかにもブリーディング、ショーなど様々なことについて親切にスーに教えていただきました。

CH. Droffats Downtown Brown Too
 
Sue and Shino

キムはナンシーのレスキューチームの仲間で大の仲良しです。私たちがキムの家に行った日は明日から家族全員でフロリダへ行くという時で、とても忙しかったにもかかわらず歓迎してくれました。彼女の家はエアデールグッズだらけで、家中どこへ行ってもエアデールグッズであふれかえっていました。

彼女はご夫妻と3人の子供、そして2頭のエアデールと暮らしています。そのうちの1頭のディアボロは、ショーでも活躍してチャンピオンを取り、なおかつオビーディエンスやアジリティもこなすというスーパードッグです。もう1頭のアンガスはレスキューした犬で、もう現在は彼女の家族となりました。

キムはオビーディエンスやアジリティの指導もしています。彼らは両方とも牡で元気いっぱいの年頃、でも本当に仲良しです。私はまずそれに驚きました。家の中でもこちょこちょくっついて、また庭に出ても2頭で転げ回って遊んでいます。もしかすると2頭とも生まれつきおとなしい犬なのかなと思い、キムに尋ねてみましたが、そうではありませんでした。ただ、やはり2頭とも去勢手術をされていることは大きな理由の一つかもしれません。チャンピオンであるディアボロを去勢していると聞き、交配することはないのだろうかと思いましたが、彼の精子は獣医師のところに冷凍保存されているそうです。もし彼の子犬が欲しいときは、人工授精すればよいので問題はないそうです。これはとても合理的な考え方だと思いますが、残念ながら今の日本で精子の冷凍保存ということは行われていないので、私たちには真似はできないようです。

 

夕方、キムの家から帰った後、夜になってナンシーはもう1軒友達の家に連れて行ってくれました。彼女もナンシーとはレスキュークラブの仲間で仲良しです。シェリーの家は夫のデイブと二人暮らし。彼女たちのエアデールは一昨年夏にたった5歳で生涯を閉じたのです。それは原因不明の脳の病気でした。アメリカの獣医の脳外科分野の第一人者にかかっていましたが、結局原因も治療法もわからず、亡くなりました。シェリーたちは未だにショックから立ち直ることができません。レスキューした犬を預かることはありますが、もう一度自分たちの家族としてのエアデールは持てないままなのです。

彼らはティンバーフレームという工法のすばらしい家に住んでいます。それは、夫妻が長年かけてコツコツと二人で作り上げた家なのです。シェリーは勤めを持ちながらアーチストの才能も持ち、たくさんの絵が彼らの家を飾っています。それは額だけではなく壁もステンシルのかわいい絵で飾られています。

私が持っていった我が家のエアデールのアルバムをシェリーは食い入るように見ていました。特にパピーの写真を見ると心から楽しそうにはしゃいでいました。きっとエアデールとの生活をまた夢見ているのでしょう。
今年に入ってナンシーから来たメールによると、最近になってシェリーのところにレスキューされたエアデールが保護されているそうです。このまま彼女の家族となるのかどうかはわかりませんが、私はきっと彼女がそうするのではないかと思います。

8日間の楽しい日々はあっという間にすぎてしまいました。クリスマスイブには教会へ行き、クリスマスには七面鳥を焼き、伝統的なアメリカのクリスマスディナーを体験しました。そして、クリスマスが終わるとアメリカの人々が楽しみにしているクリスマスセールにも行き、買い物も楽しみました。実はうちにはクリスマスツリーがないのに、オーナメントや電球などを買ってきてしまったのです。これで我が家も来年はツリーを買わなければならなくなりました。その他にもバレー「クルミ割り人形」を見に行ったり、素敵なお城を見学に行ったりもしました。 そして、このように他のエアデールの友達やブリーダーにも会うことができ、とても有意義な毎日でした。

ナンシーとも毎日エアデールについて話をしました。その中でアメリカのショーについてもよく話をしました。アメリカでのショーはプロハンドラー中心で、オーナーハンドラーはとても少ないようです。カナダの友達マーガレットはよくモンゴメリ展にも出陳しますが、彼女はオーナーハンドラーです。またキムもオーナーハンドラーですが、彼らは少数派かもしれません。トリミングを教えてくれるところもなく、ショーイングすることはとても難しいと考えているようです。その点オーナーハンドラーが多いイギリスとはかなり違うと感じました。日本でも多少そういった感じはあるかもしれませんが、少なくとも私たちのクラブでは大勢の方が自分でトリミングをして、ショーを楽しんでいます。この環境は本当に幸せだなと改めて感じました。

そしてもう一つ、私が会ったレスキューされた犬たちは、どの犬も明るく、素直で本当にすばらしい犬たちでした。でも現在の平穏な生活になるまでは大変辛い思いをしてきたのでしょう。私が行ったところはほんのオハイオだけで(それでもこの州は広大なところです)、その中で3頭ものレスキューされた犬たちに会うのはレスキューチームの家に遊びに行ったのですから、当然かもしれませんが悲しい思いがしました。なぜアメリカでこれほどレスキューされる犬が多いかは色々と理由があると思います。最近では、日本でも時々そのような話を聞くことがあります。不幸なエアデールが増えないためにも、適切な飼育指導、健全な繁殖がいかに大事かを考えさせられました。